小豆島で伝統と挑戦の醤油づくりを 香川県・高橋商店 大野英作さん[生産者をめぐる #4]
私たちシェフの無添つくりおきが素材や製法にこだわる理由。
それは、人の想いもいっしょに届けたいから。
「もしかしたら効率はよくないかもしれない。
だけど、おいしくて栄養たっぷりな食事を安心して楽しんでもらいたい」
そのために、私たちにできることを精一杯、手間隙かけて作っています。
それが実現できるのも、ひとえに日々想いを込めて食材を作っている生産者の方々の支えがあるからこそ。
妥協を許さず、ほんものを追求して丁寧に作る。
研ぎ澄まされた職人の技が、想いや歴史を紡いでいく。
私たちと同じ想いで食に向き合う作り手は全国にたくさんいます。
今回は、香川県小豆島で約160年にわたって醤油を作り続けている
『高橋商店』の代表取締役社長・大野英作さんにお話を伺いました。
シェフの無添つくりおきのオリジナルの八方だしに欠かせない、国産丸大豆醤油を作っています。
伝統的な木桶仕込みの醤油を作り続ける傍ら、大豆や小麦を使わない醤油作りという画期的な挑戦も続けている高橋商店。
そのこだわりや想いを、『醤油の里』小豆島で聞いてきました。
<目次>
歴史と気候によって生まれた、「醤油の里」小豆島
瀬戸内海・播磨灘に浮かぶ、穏やかな気候に恵まれた島「小豆島」。
小豆島といえば、最近ではオリーブオイルが有名ですが、実は「醤油の里」としても有名なのです。
香川県の醤油の生産量は全国で5位を誇り、そのうちの約半数が小豆島産。
小豆島での醤油作りには約400年という長い歴史があり、今では珍しくなった「木桶仕込み」という伝統的な製法が行われています。
嘉永5年(1852年)に創業した高橋商店が醤油作りを始めたのは、文久 3年(1863年)のこと。
約160年もの間、小豆島で醤油を作り続けてこられた理由を大野さんに尋ねてみると、
「守られていたってことですかね」と言いつつも、「雨が少ないというのは非常に醸造に適した気候だったんだろうなあ」と、
小豆島の気候について話してくれました。
小豆島の年間平均降水量は全国平均と比べて約600mmも少なく、いわゆる「温暖小雨」と呼ばれる気候として知られています。
醤油作りに欠かせない麹の発酵には温暖な気候や適度な湿度も必要で、小豆島はこれらの条件を満たした土地であったと言えます。
木桶に棲みついた、見えない”協力者”
醤油は、どのようにして作られるかご存じでしょうか?
簡単に説明すると、原料となる大豆や小麦に「麹菌」を加えて仕込んだ「もろみ」を発酵・熟成させることで醤油ができあがります。
スーパーに並んでいる醤油のほとんどはステンレスなどでできた大型のタンクで製造が行われているのに対し、高橋商店では昔ながらの「木桶」を使用しているのが大きな特徴です。
木桶とは文字通り木でできた桶のことで、現在では日本全国に2000個程度しか残っていない貴重なもの。
小豆島にはその半分ほどが存在していると言われており、今でも現役で醤油作りに使われています。
(醤油記念館で木桶の大きさを体験!)
木桶仕込みで作る醤油は、大型のタンクで作る醤油と何が違うのでしょうか?
実は、長年使い込まれた木桶には「お醤油を作るのに必要な酵母と乳酸菌が3種類ずつくらい木の間に住み着いてくれている」ことが分かったという大野さん。
それらの酵母や乳酸菌が産出する酸や香りが複雑な味を生み出しているのではないか、とのこと。
ステンレスなどの大型タンクにはない、「住み着いた微生物たち」の存在は大きな違いであると言えそうです。
一般的な醤油は温度管理がなされ、約半年で完成するのに対し、木桶仕込みは自然の気温に任せ、約一年もの長い期間をかけて作られています。
かかる期間はなんと2倍!
大型タンクで行われるような製造方法の方が「効率はいいですよね」と大野さんは話します。
しかし、小豆島の暖かな気候に任せ、一年以上の期間をかけじっくりと発酵・熟成を行った醤油は濃く深い色合いで、なんとも複雑な味や香りが広がります。
無添加の醤油づくり、それはシンプルを極めるということ
長きにわたって醤油作りを続けてきた高橋商店。
現在では協業化により麹作りから圧搾までの過程は「島醸」という協業組合で行われていますが、大きく製造方法を変えることなく伝統を守り続けてきました。
そのこだわりについて伺ってみると、
「こだわっているというか、逆にシンプルな配合にすることにこだわっている。余分なものは入れない」
との答えが返ってきました。
世の中に溢れている安価な調味料は、短い期間で効率よく製造する必要があるため、どうしても香りや風味を補うための添加物を加える必要があります。
高橋商店の木桶仕込みの醤油づくりは、地元や国産の原料にこだわって、じっくりと時間をかけて作り上げるもの。
効率はよくないかもしれないけど、添加物に頼らずとも「シンプルな配合」で最高の味を作り出せている、というわけなのです。
伝統を守りながらも、挑戦者であり続ける
伝統的な醤油作りを続けるかたわら、高橋商店は「大豆や小麦を使わない醤油」である「そら豆醤油」という商品を生み出しました。
「そら豆の醤油!?」と思われるかもしれませんが、一般的な醤油は大豆や小麦を原料としています。
そんな中、アレルギーを持つ子どもの母親たちの「アレルギーフリーの醤油ってないのかな」という声によって始まったのがそら豆醤油の開発だったそうです。
香川県の食品研究所と協力しながら、大豆や小麦の代わりになる食材を模索することになった高橋商店。
その道のりは険しいものでした。
そもそも木桶仕込みで作る醤油には最低でも1年ほどの期間がかかる上に、通常の醤油と同等の美味しさに仕上がる食材はなかなか見つからず、開発には2〜3年ほどの歳月を費やしたといいます。
試行錯誤の末、これならアレルギーを持つ方にも美味しく醤油を楽しんでいただけると納得できた食材は「そら豆」でした。
アレルギーを持つ方でも安心して食べられるように専用の資材を使用したり、機械の分解や洗浄にも細心の注意を払い製造されているそら豆醤油。
大変なことも多いそうですが、お客様に安心して醤油を味わってもらいたいという「お客様ファースト」のこだわりこそが、「挑戦者」であり続ける理由であると感じました。
これからも、小豆島で伝統を守っていく
高橋商店の玄関には、横の長さが28メートルもある、「長屋門」と呼ばれる切り妻造りの門があり、国の登録有形文化財に指定されています。
「もうああいうのが残っているところってほとんどないんですよね。だからあれは残そうじゃないか、と」と話す大野さん。
維持するのは大変ですけどね、と言いながらもはにかむその表情から、伝統を守り続けることへの誇りが垣間見えたような気がします。
非効率かもしれないけど、小豆島の気候に合わせ、
じっくりと時間をかけて木桶仕込みの醤油を作り続けていく。
その姿勢は、私たちの「添加物を使用しない」食事作りにも通じるところがあります。
効率よりも、本当の意味でお客様に”ちゃんとした”食事を届けるために、”正直”であることを徹底する。
今回の取材を通して、
「シンプルに、人の手で丁寧に作る」ことを重視した高橋商店の姿勢からは
手間はかかるかもしれないけれど、「お客様を第一に」という気持ちが伝わってきました。
これからも、同じ想いで食と向き合っているつくり手の方々とともに
私たちシェフの無添つくりおきは食の未来を見つめていきます。
【高橋商店】
〒761-4411 香川県小豆郡小豆島町安田甲142番地
TEL:0879-82-1101
https://www.shodoshima-yamamo.com/
高橋商店の醤油を使った、特製八方だし香る和食
じっくり1年以上木桶で熟成させ、「本場の本物」認定を受けた国産丸大豆醤油。
高橋商店のこだわりの醤油に、昆布、かつお、煮干の旨みを加えて作られたのがシェフの無添つくりおきオリジナルの「八方だし」です。
このだしを使って作られた和食の数々は、カラダにもココロにも染み渡る味わい深さを持っています。
小豆島からの贈り物をぜひ味わってみてください。